社長が語る“ヤマシタの展望”とは
権限もやりがいも用意するので、あるべき姿を思う存分追求してほしい。
より豊かに生きる未来社会を目指し、在宅介護のインフラ整備に取り組む
半世紀以上にわたり、豊かな在宅介護を支援し続けてきた株式会社ヤマシタ。介護用品レンタル・販売事業を軸とした在宅介護サービスの最大手の一角を担う企業です。在宅介護のあり方を改革するために、AIやデジタル技術を活用した、在宅介護プラットフォーマーを目指しています。今後の日本、そして世界が超高齢社会を迎えるなか、介護事業が持つ可能性、業界変革をリードする意義について、代表取締役社長の山下和洋氏に伺いました。
代表取締役社長/山下 和洋
── はじめに、ヤマシタが現在注力している在宅介護の事業とミッションを教えてください。
介護用品のレンタルや販売を通して、在宅での介護をサポートするのが当社の主力事業です。介護分野が超高齢社会における成長産業であることは周知されていますが、その本質的な重要性や社会的意義について正しく理解している人は、意外と少ないのではないでしょうか。
というのもこの先、団塊の世代の高齢化が進み、2035年にはこの国の3人に1人が高齢者になるため、医療費負担の増大が深刻な課題となります。いわゆる2035年問題ですね。
ここで重要なのは、高齢者が医療サービスを受ける前に、自身の力で自立した生活ができるよう支援することです。住み慣れた自宅の環境で過ごしたいという要望は強く、財政的な観点からも、今後自立型の介護を求める声が大きくなるのは間違いありません。令和3年度 介護給付費等実態調査によると、在宅介護者の6割が介護用品のレンタルを利用しています。この分野は超高齢社会を支える、重要な社会インフラであるといえます。われわれは在宅介護分野で事業を成長させることで、これからの社会に貢献していきたいという思いを持っています。
そのためには、志を共有し、一緒に取り組んでくれる仲間を集めなければなりません。当社の企業理念「正しく生きる、豊かに生きる」が目指す先にあるのは、多くの高齢者の皆様が豊かな生活を自己実現できる社会です。そうした未来をともに創出いただける方にぜひ仲間になってほしいと考えています。
── ヤマシタが目指す理想の介護とはどのようなものでしょうか?
介護事業は、大きく2つに分けられます。1つはご利用者様の生活を「人が補助する」事業、もう1つはご利用者様の生活の「自立を支援する」事業です。ヤマシタの事業は後者です。
「人が補助する」事業では一例として、介護施設を建て、ケアサービスの専門の職員がご利用者様のできないことを代わりに行います。これはなくてはならないサービスですが、ご本人の自立を弱める可能性もあります。
一方、「自立を支援する」事業では、ご利用者様が望む生活環境を、なるべくご自身で実現できるよう支援します。周囲の支援とご自身の力を生かして、ご利用者様がより豊かに生きることを、介護用品を通じてお手伝いをするのがヤマシタの事業です。
高齢者にとって、自力では難しいと思われていたことができるようになるというのは、われわれが思っている以上に大きな感動体験につながります。これはより健全な社会を構築していくための第一歩であり、当社の企業理念である「正しく生きる、豊かに生きる」にも通じます。
「2035年問題」を見据えた、2030年までの長期ビジョン
── 具体的に掲げている成長戦略についてお聞かせいただけますか。
直近の数値目標として掲げているのは、2030年までに売り上げを現在の3.5倍、年間850億円に伸ばすことです(※2022年3月期の売上高は241億円)。これは業界で最も高い二桁成長率を続け、さらにM&Aで規模の拡大を図っているヤマシタからみると、決して絵空事ではなく、到達できる目標だと認識しています。
目標達成のカギを握る施策の一つはテクノロジーの活用です。当社は、AIサービスを開発する株式会社エクサウィザーズと連携して専用アプリによる歩容改善や転倒リスクの抑制を目指したり、介護・福祉向けプロダクトを開発する株式会社abaに出資を行い、共に排泄センサーを用いた排泄ケアシステムの開発をサポートしたりと、デジタルテクノロジーを活用した全く新しい在宅介護サービスに取り組んでいます。
当社が持つデータとAIの技術を生かせば、当事者のADLs(Activities of Daily Living)、つまり日常生活動作を正確に把握し、その状態に対してどの介護用品がふさわしいのか、的確に提案することが可能になります。介護サービス事業者と在宅介護支援事業者間のデータ連携を行う仕組み「ケアプランデータ連携システム」も来年にスタートを控えており、介護事業のデジタルシフトはますます加速していくでしょう。
── ヤマシタは介護業界の常識を超える先駆的な取り組みを次々と打ち出していますが、その先にどのような未来を思い描いていますか。
われわれが目指しているのは、デジタルを活用した在宅介護プラットフォーマーです。それは当事者の自立支援はもちろん、介護従事者の方にとっても、負担を大きく軽減することにつながり、介護の在り方を抜本的に進化させることと同義だと考えています。
高齢化は日本だけの問題ではありません。一昨年に進出した中国・上海において、ヤマシタが立ち上げた合弁会社は現地シェア50%以上を獲得しました。上海政府が介護用品レンタルにかかる費用の50%を負担する政策を打ち出すなど、中国では介護市場への関心が高まっており、さらなる成長が確実視されています。そういった状況のなか、われわれがモデルケースになれた事実は、日本発の事業が世界標準になり得ること、サービス業が輸出産業になり得ることを示しているのではないでしょうか。
── 壮大なビジョンですが、それらを実現させるうえで重要となるヤマシタの強みはどういったところでしょうか。
現場の解像度を高く持って具体策を練り、それに基づいてPDCAを着実に回して成果を生み出していける点です。在宅介護のビジネスは地域セグメントを細かく分けて、ご利用者様へのサービスで競争力を高めることが必要です。当社の場合、市をいくつかのエリアに分けてチームでサポートするやり方をしています。
業界内でも、社長やマネージャーがこれほど現場にコミットしている企業はおそらくまれでしょう。徹底した現場主義だからこそ、STP(Segmentation、Targeting、Positioning)や3C(Customer、Competitor、Company)といった分析フレームワークによるエリアのご利用者様をカバーする取り組みが生きるともいえます。現場で得られた課題について、スピーディーに対応できるマインド、専門性、そしてチーム制の支援体制の仕組みがあるのは、当社の大きな強みです。
こういった下地ができているのは、もともとヤマシタのスタッフに専門性の高さや真面目さ、真摯な姿勢が根付いているからだと考えています。当社スタッフは、その場しのぎで取り繕ったり、何かをごまかしたりすることが苦手なタイプがほとんどで、現場もマネジメント層も関係なく、常に誠実に課題に向き合い対応しています。こういった点は、当社ならではの特長だと自負しています。
「EX×CX」こそが介護業界を変えるカギ
── 先述の成長戦略を実現するうえで、特に重視していることはありますか。
人材の採用と育成・定着は、当社が成長を遂げるうえで何よりも重要だと考えています。当社の採用サイトには「Realize the Potential」という言葉を掲載し、人材を「人財」として大切にする姿勢を積極的に打ち出しています。これは、人の成長なくして企業の成長はない、と日々事業を推進するなかで痛感しているためです。
実際、採用後の育成・定着に関しては、私が社長を継いで3年目に大きな壁にぶち当たったことがありました。というのも、介護市場も会社もまだまだ伸びていくはずなのに、事業の成長スピードに人員が追い付かず、あまりの激務に組織全体が著しく疲弊してしまったのです。
そこで、オンボーディング(新しい仲間の順応を促進する教育プログラム)を徹底し、受け入れたスタッフ一人一人の人材育成に力を入れました。これにより、組織全体のケーパビリティが向上したことで社内の雰囲気は驚くほど改善し、スタッフの笑顔も増え、お客様からの評価も上がっていったのです。
── EX(仕事のやりがい)の向上がCX(より良いご利用者様の体験)につながっていったわけですね。
そのとおりです。そして、育成制度はオンボーディングだけにとどまりません。直近の取り組みとしては、職種ごとに業務とスキルを「職種力」と定義づけ、目標管理や能力開発、評価に活用し、スタッフ一人一人が次のステップへ進むために必要な項目を明確化しました。こういった育成によって、スタッフの定着率も確実にアップしています。
さらに、職種力のデータをベースに育成計画や成長計画を立てることは、評価にあたるマネージャーのレベルアップにもつながります。上司とメンバーの1on1においても、AIによる診断を導入し、上司ばかりが話し過ぎていないか、目的に沿った対話がなされているかをチェックするようにしています。
介護業界の平均離職率が約14%なのに対し、当社の在宅介護事業の退職率は3%ほどにとどまっています。この離職率の低さは業界内における当社の強みであり、成長の源泉でもあるといえます。EXを高め、より良いサービスを提供することにつなげるために、成長や育成を支援する取り組みを今後も積み重ねていきたいと思います。
感動を生み出し、社会を変える。介護業界のリーディングカンパニーへ
── そんな貴社が現在、抱えている課題はありますか?
ありがたいことに、事業は成長の一途をたどっていますが、残念ながらマネジメント層の人材がまだまだ足りていません。組織を引っ張り、事業の核を担うマネージャーの採用と育成は急務です。
マネージャー層の育成については、マネジメントの要件を満たす可能性があれば、経験がなくともマネージャーに登用する方式を取り入れています。ただ登用するだけでなく、各役割に応じた能力や経験を可視化し、能力開発を促進しています。
例えば、営業所長の場合、「営業所長の役割表」をもとに3カ月間のオンボーディング期間を設け、スキルや経験値をチェックしながら、所長経験者がサポートします。また、近隣の所長とのサポートネットワークを作ったり、所長のバーチャルコミュニティ【ワイがやの会】で頻繁な情報交換を行ったりしています。研修の実施方法も、対面の研修に加え、動画によるマニュアル作成やウェビナーなど生産時間に考慮した実施方法も取り入れています。さらに、各拠点において、上長がどれだけメンバーの話を聞けているかをリサーチする取り組みも行っています。
先述の圧倒的な売り上げ目標を達成するには、組織の成長スピードを倍々で引き上げる必要があります。そこで重要になってくるのが、新たな取り組みや体験から素早く学び「カイゼンする力」、戦略的に介護事業の変革を「推進する力」、さらに学ぶ力のある人材、また「育てる力」を持ったマネージャー層を採用することです。特に長期ビジョン達成には、スピーディーな人材の採用・育成は必要不可欠で、重要な課題となっているので、仕組みづくりに着手しています。長期ビジョン達成を成功させるべく、一緒に推進してくれる方を求めています。
── 今後の介護業界の変革を担う非常に重要なポジションということですね。マネジメント層として、どういった方に仲間になってほしいですか。
業種にかかわらず、多店舗展開のマネジメント経験を持つ方は大歓迎です。もともと介護業界は他業種で活躍していた方も転職される傾向があり、現在のマネジメント層も約3割が他社や他業種からの転職組です。多彩な人材が活躍できる土壌は整っているので、切磋琢磨しながらスキルアップを図り、会社の成長や組織の変化を楽しんでいただきたいと考えています。
また、当社のマネジメント層に求める能力として、自分よりも秀でた人材をしっかりアトラクトできる(引きつける)力が挙げられます。というのも、停滞している組織のマネージャーの多くは、自分がコントロールできる人、自分の地位を脅かさない人、自分より能力の低い人を登用しがちです。当然、そんなことでは組織の成長は望めません。組織や個人のポテンシャルを最大限に高めてくれる優秀な人材を採用できるマインドは、当社のマネージャーに不可欠といえるでしょう。
加えて、AIやDX(デジタルトランスフォーメーション)などデジタル領域に明るい方、その知見を世の中に役立て、実際に社会を変えていきたいと考えている方にもぜひ仲間になっていただきたいです。
── ヤマシタに入ることで得られる喜び、やりがいについてお聞かせください。
一般的に、介護の仕事は重労働で精神的・身体的負担が大きいなど、どうしてもネガティブに捉えられがちです。しかし、在宅介護をさらに充実させることができれば、住み慣れた自宅で生活を続けられますし、老老介護の不便さや厳しさの解消にもつながっていきます。加えて、用具を使ったサービスの向上は、介護される方ご自身の力を生かすため、介護人材不足の問題解消にも貢献すると考えます。在宅介護事業によって社会がより豊かになっていくことに、私自身大きなやりがいを感じています。
われわれの仕事は単に商品を納めるというものではありません。いわば、お客様のクオリティー・オブ・ライフを向上させていくやりがいのある仕事です。例えば、お客様の自宅にお邪魔した際、手あかが多く付いている部分に気づき、そこに手すりを付ける必要性を提案するなど、お客様が本当に必要としているものを見極め、最適な商品の選定と提案を行うこともあります。
心身の状態や住まいの環境は毎回変わるため、そのたびお客様と密にコミュニケーションをとり、深く理解することを大切にしています。それによって症状が和らいだり、今まで無理だと思っていたことができるようになったりしたことで、涙ながらに感謝してくださる方もいて、言葉では言い表せないほど感動する場面が山ほどあります。それは、当社だからこそ味わえる喜びだと思います。
ヤマシタは今後、在宅介護事業で業界シェアを握り、在宅介護の変革をリードしていきたいと考えています。誰もが悩み、解決できなかった介護領域の変革を一緒に実現してくださる方を、心からお待ちしています。