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プロフェッショナルのエンジニアを育成する「ヤマシタのDX」

インタビュワー:株式会社ヤマシタ DX推進 小川邦治
公開日:2023/9/11

社会の高齢化に対応するように介護業界・市場は、拡大傾向が続いています。一方で、業界における人手不足は深刻な問題であり、2040年には約69万人の介護人材が不足するといわれており、今や業務のデジタル化やロボット・AI技術の活用など、テクノロジーの導入は不可欠となりつつあります。

そうした中、ヤマシタでは「在宅介護プラットフォーマー」への変革を掲げ、生産性の向上およびCX(顧客体験価値)の拡張を目的としたDXを推進しており、システム開発の内製化に向けてデジタル人財の採用を強化しています。

今回はヤマシタのデジタルアドバイザーである池照直樹氏が思い描くDXの道筋やエンジニアとしての思想、アジャイル開発に向けたノーコード(ローコード)ツール導入のねらいや、それを担うエンジニアへの期待などについて伺いました。

池照直樹
カインズ執行役員チーフデジタルオフィサー(CDO)兼チーフイノベーションオフィサー(CIO)兼デジタル戦略本部長。伝統的な小売業だったカインズのDXをリードする。2023年ヤマシタのデジタルアドバイザーに就任

「エンジニアは外に出て人に会うべき」世界を経験した池照氏が明かす成功の秘訣

小川:池照さんは大手小売チェーン「カインズ」において、売上に加えて顧客体験を向上させるDX改革に成功されています。長年にわたり常にデジタル分野の最前線でご活躍されていますが、特に先進テクノロジーに関する知識・情報などはどのように得られているのでしょうか。
池照:一番はやはりエンジニアの横のつながりでしょうか。技術者、研究者はもちろん、ベンチャーの起業家や経営者などが会する場にはなるべく顔を出すようにしていて、新しいテクノロジーや活用分野の話などの情報や着想はそこから得ることが多いですね。一見、専門分野とあまり関係がなさそうな場所でもビジネスのヒントにつながることがあるので、業界・業種にこだわらず広くお付き合いをすることを心がけています。

そういった意味で、カインズのエンジニアにも機会があれば、どんどん外に出ていくことを推奨しています。例えば、Amazonやマイクロソフト、Salesforceといったシステムプラットフォーマーが主催するセミナーや交流会などもそうです。それらに顔を出せば、自然と知り合いは増えていきますし、自身がいま何をしているかなど発信することで、それ以上の情報が返ってきます。

小川:たしかにエンジニアは仕事的にも何かと内にこもりがちですが、外に出ていくことは大切ですね。
池照:私が若いころは一年で「今日は○人に会う」といったノルマを決めていました(笑)。シリコンバレーに行くと、まるで大きな家族のようにエンジニア同士が全員顔見知りといった感じでした。やはり、成長意欲の高いエンジニアはお互いが何をやっているのか気になるものですから、コミュニケーションや情報交換を非常に大切にしています。

小川:なるほど。日本とアメリカの開発志向の違いもそういった部分に出ているのかもしれませんね。
池照:日本は、ものづくりにおいて独自性を求める傾向が強いように感じますが、欧米はその逆で、どんどん“パクり”ます。つまり、成功しているビジネスモデルを徹底的に研究して模倣することで、先駆者のブルー・オーシャン(魅力的な成長市場)に参入していくのです。

「無理をしない」“最短”ではなく“最適”を選択するのがリーダーの役割

小川:カインズは国内でも数少ないDX成功企業ですが、独自システムの開発、内製化に成功した秘訣はなんでしょうか。
池照:逆に DXがうまくいっていない事例に着目すると、リーダー的な立場にある人が一番星(最終的な到達目標)のみを掲げて、あとはなにもしていないという状態にある企業が多いように思います。プロジェクトを立ち上げたけれど「現場の実行スピードが上がらない」「なかなか具体的な成果が見えない」といった声がよく聞かれます。これらの背景には、計画を実行に落とし込む戦略・プロセスがきちんと練られていない、実際に事業を推進・指導する人材がいないといった問題があります。一番星を掲げることは誰にでもできます。大切なのは一番星へ到達するための道筋がきちんと示してあげることです。

小川:池照さんがDXを推進する上で、重視されたことはありますか。
池照:私自身が大切にしていることでいえば「無理をしない」ということでしょうか。DX改革を進めようとすれば当然、組織の体制やリテラシーの問題、既存の事業・システムとの関係や現場の実情など、数多くの課題が生じます。よく趣味であるウインドサーフィンに例えるのですが、ゴールに向かう道筋で向かい風が吹いたとき、それを真正面から受けては前に進むことができません。そんなときは無理をせず、風向きに合わせる、あるいは予見して風を避けながらジグザクに進路を取るとることも必要です。それが結果としてゴールにたどり着く最適ルートとなるのです。

つまり、スタートからゴールまでのルートをはじめからガチガチに決めて、ひたすらに邁進するのではなく、都度の状況に応じて最適な進路を選択しながら前に進むこと。その舵を取ることがリーダーの仕事と考えています。

介護テックのプラットフォーマーとしての「ヤマシタの可能性」

小川:池照さんから見た「ヤマシタの可能性」についてはいかがでしょうか。
池照:高齢化と人口減少が加速度的に進む日本で数少ない成長産業である介護福祉業界において、ヤマシタのDXプロジェクトには非常に大きな可能性と、社会的意義を感じます。同時に、業界の競争環境においてはテクノロジーによる差別化が今後の成長の大きなカギだと認識しています。

小川:たしかに社内に目を向けると、紙やアナログデバイス(電話・FAXなど)での対応がまだまだ多く、デジタル化の余地が大きいと感じます。介護業界全体で見てもDXによる成長ポテンシャルが高いマーケットであることは間違いありません。
池照:今後ヤマシタが介護テックのプラットフォーマーとしての地歩を固めるためには、革新性・スピードの向上が不可欠であり、システム開発の内製化は必然といえるでしょう。同時に技術側面でのDXだけでなく、社員のエンゲージメントを高め、お客様に対するより良いサービスを提供し続けるカルチャーを作り上げていくことが重要だと考えています。

小川さん:現状では、2023年度中に内製化した組織を立ち上げて社内システム構築の基盤を整え、24年度は社内システム構築+外部向けサービスの検討、そして25年度に外部向けサービスの本格運用を開始するというロードマップを描いています。池照さんには、内製化チームを中心にシステムのアーキテクチャや開発における課題・問題点などを随時ご相談させていただきます。
池照:はじめにアーキテクチャをきちんと設計していないと、システムの機能追加が難しくなってしまいますからね。内製化においては、開発自体の量を減らしていくことも必要なので、要件を整理しいらないものをソートアウトしていくことが重要になります。
たまに「要件を提示してくれないと作れない」というエンジニアがいますが、それは間違っていて本来、自社のビジネスプロセスやワークフローがきちんと理解できていれば、システムの9割方は作れるはずなんです。そういったマインドセットや組織面でのアーキテクチャ構築の課題解決もフォローアップしていきたいですね。

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ノー・ローコード導入で目指す現場と一体となった「伴走型アジャイル開発」

小川:池照さんのアドバイスをもとにノーコード(ローコード)開発の導入を推進し、ツールとしてSalesforceの「Lightning Platform」の採用を決定しました。
池照:アーキテクチャを構築する上で一番の決め手は“世界で最も使われているツール”であることと考えています。多く使われているということは、それだけユーザビリティが高く、また規模の経済がはたらいているのでエコシステムの上でも周辺のソリューションが充実しているなど、多くのメリットがあります。前述の話にもつながりますが、やはり成功事例のノウハウをうまく模倣していくことが開発の速度と確度を高めることつながるのではないでしょうか。

小川:ノーコード(ローコード)を取り入れることで開発における技術的なハードルが下がり、ある意味プログラミングに関する専門知識がない人材でも開発に携われる環境となりますが、そのねらいについて考えを聞かせてください。
池照:ノーコード(ローコード)の導入と開発の内製化において最も成し遂げたいことは「現場との信頼関係の構築」です。よく陥りがちな失敗として、要件定義に半年、開発に1年かけたけれど、その間、発注者である現場と十分にコミュニケーションが図れていないことで、現場の実情や声が反映されずに使えないシステムができてしまうケースがあります。

そうならないためには、現場との密なコミュニケーションに加えて、その声をシステムに落とし込み、スピーディに反映することが求められます。ノーコード(ローコード)はそのためのツールです。それにより、システムを現場で運用しながら課題の洗い出し・改修を進める、いわゆる“伴走型のアジャイル開発”を行うことが、現状のヤマシタにおける理想の開発のかたちではないかと考えています。

アジャイル開発は、現場でのトライ&エラーを繰り返しながら、より精度の高いものを開発していく手法です。完璧なものを求めるあまり開発に時間と予算を費やし、また結果として完成したシステムのユーザビリティが低かったのでは元も子もありません。まずはプロトタイプを作り、現場と伴走しながら作り込んでいく――その過程で現場を含む全社的なICTリテラシーも自然と高まっていくのではないかと考えています。

ヤマシタを「プロフェッショナル・エンジニアが集う場所」に

小川:最後に、池照さんの考える理想のエンジニア像についても聞かせてください。
池照:エンジニアの立ち位置という意味では、日本は現場である程度キャリアを積むと、マネージメント側に移るという組織の体系的構造がありますよね。しかし、外資系企業などを見ると40代、50代でもバリバリ現場でSEとしてキャリアを重ねていて、能力に見合った報酬を得ている方がたくさんいます。これだけ働き方やスキルが多様化しているのですから、日本にもプロフェッショナルとしてのエンジニアのキャリアが描ける会社がもっとあればと常々思っていて、ヤマシタがそうなってくれればうれしい限りですね。

小川:ぜひ、そういう環境を作りたいと思います。新しい人事制度では、今後そういった要素も含めて検討を進めていきます。では、ヤマシタに必要なエンジニア像という意味ではいかがでしょうか。
池照:やはり、謙虚に学び続けられる姿勢を持った方が必要かと思います。時代が進めば、技術はすぐに陳腐化してしまいます。なので、現在のスキルや実績よりも自分に足りないもの、世の中に足りないものに目を凝らし、それを糧にパフォーマンスを発揮できること、常に自分を変えていける力が大切ではないかと思います。そういった意味でも、外に出て人に会うことで、たくさんの知識や価値観を得て欲しいとも思います。

新しいチャレンジができる環境でさらに成長したい、介護業界のデジタル化をけん引していくようなサービス・システムを開発したい、そんな意欲にあふれる人材の登場に期待しています。

小川:ありがとうございました。今後も池照さんにアドバイスを仰ぎながら、柔軟に、迅速にDX改革を推し進めていきます。